小説 wildflower Infinity 第二部 wildflower63 夜明け前から、藁を踏む音が聞こえてくる。 耳丸はまだ夢の中だが、その音が気になって目を覚ました。 礼がいくら慎重に動こうとも、藁の音を消すことはできなかった。礼の逸る気持ちが夜明け前も前に目を覚まさせて、身支度を済まさせていた。 夜明... 2020.02.09 小説 wildflower
小説 wildflower Infinity 第二部 wildflower62 山を一つ越えたところで、伊良鷲と六郎は馬を降りた。ここが別れの場所ということだ。耳丸は礼を降ろし、自分も馬から降りると、その手綱を六郎に渡した。 伊良鷲が道の奥を指差した。 「この道を行けば、都に続く道と合流できる。気をつけて」 礼と耳... 2020.02.07 小説 wildflower
小説 wildflower Infinity 第二部 wildflower61 自分が何をしたのかよくわかっているから、夜は明けて欲しくなかった。 陽が高くなっているのに、耳丸は夢の中に寝転がっていようとした。しかし、いつまでもこうして寝ているわけにはいかない。思い切って目を開けると、自分の前に背を向けて寝ていた礼の... 2020.02.05 小説 wildflower
小説 wildflower Infinity 第二部 wildflower60 追いかけて、追いかけて。毎夜、息を切らして最後には倒れるまで追いかける執着。 今日は捕まえられそうなほどしっかりと女の後ろ姿を追っている。 白い肌の女。 ああ、誰だろう。捕まえて、お前は私のなんなのだと、問いたい。 艶やかな黒髪の女... 2020.02.03 小説 wildflower
小説 wildflower Infinity 第二部 wildflower59 季節は晩秋へと移る。寒い日が続いて、冬の訪れを感じる。 季節の変わり目は体の不調を訴える者が多くて、熱が出た、咳が止まらないなどの症状があると、迷わず礼のもとを訪れた。 礼のことを当て新している村人のことを知っていて、伊良鷲も、耳丸が完... 2020.02.02 小説 wildflower
小説 wildflower Infinity 第二部 wildflower58 その一方で、耳丸は芳しくない。 新を診た後、親子の元に長居せず、礼は立ち去った。新のために作った薬湯を少し分けてもらい、耳丸の元に行く。 「耳丸」 礼は声をかけて、小屋の中に入る。 耳丸は、板の上を痛がって、苦労して隣の藁の上に移った... 2020.01.31 小説 wildflower
小説 wildflower Infinity 第二部 wildflower57 翌日、伊良鷲が粥を持って現れた。 礼は守られた場所で休めることに安心して、随分と寝込んでしまった。伊良鷲が、小屋の戸を外した時に、慌てて起きだした。横にいる耳丸は気を失ったように眠っている。 すぐに立ち上がって、入り口に向かった。陽は高... 2020.01.28 小説 wildflower
小説 wildflower Infinity 第二部 wildflower56 刻は未(午後二時)の頃。陽はどんどんと強くなり、あたりの木々に降り注いだ光が雨粒を照らして美しい。岩畳は陽に水分を吸い取られ、干上がっていく。そこへ、馬の嘶きが聞こえた。その後に、それを囃し立てる人の声が聞こえた。 ……人の声が聞こえた!... 2020.01.26 小説 wildflower
小説 wildflower Infinity 第二部 wildflower55 次に耳丸が目を覚ました時は、もう朝は過ぎていて、目の前には厚い雲が覆った空が見えた。 「……礼」 近くにいると思って名を呼ぶと、しばらくして草を踏む音がゆっくりと聞こえてきて、礼が現れた。 「気分はどう?」 礼は耳丸の頭を上げさせて膝を... 2020.01.25 小説 wildflower
小説 wildflower Infinity 第二部 wildflower54 「鳥が屍体を狙っているから、移動させたのよ」 礼は耳丸にもう一度水を飲ませて、山から採ってきた生り物の皮をむいてちぎると口の中に入れた。耳丸は口に入ったその果肉を口の中で潰して甘みを吸った。 「耳丸、傷口を診せてもらうわよ」 そういうと... 2020.01.23 小説 wildflower