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小説 wildflower

Infinity 第二部 wildflower63

夜明け前から、藁を踏む音が聞こえてくる。  耳丸はまだ夢の中だが、その音が気になって目を覚ました。  礼がいくら慎重に動こうとも、藁の音を消すことはできなかった。礼の逸る気持ちが夜明け前も前に目を覚まさせて、身支度を済まさせていた。  夜明...
小説 wildflower

Infinity 第二部 wildflower62

山を一つ越えたところで、伊良鷲と六郎は馬を降りた。ここが別れの場所ということだ。耳丸は礼を降ろし、自分も馬から降りると、その手綱を六郎に渡した。  伊良鷲が道の奥を指差した。 「この道を行けば、都に続く道と合流できる。気をつけて」  礼と耳...
小説 wildflower

Infinity 第二部 wildflower61

自分が何をしたのかよくわかっているから、夜は明けて欲しくなかった。  陽が高くなっているのに、耳丸は夢の中に寝転がっていようとした。しかし、いつまでもこうして寝ているわけにはいかない。思い切って目を開けると、自分の前に背を向けて寝ていた礼の...
小説 wildflower

Infinity 第二部 wildflower60

追いかけて、追いかけて。毎夜、息を切らして最後には倒れるまで追いかける執着。  今日は捕まえられそうなほどしっかりと女の後ろ姿を追っている。  白い肌の女。  ああ、誰だろう。捕まえて、お前は私のなんなのだと、問いたい。  艶やかな黒髪の女...
小説 wildflower

Infinity 第二部 wildflower59

季節は晩秋へと移る。寒い日が続いて、冬の訪れを感じる。  季節の変わり目は体の不調を訴える者が多くて、熱が出た、咳が止まらないなどの症状があると、迷わず礼のもとを訪れた。  礼のことを当て新している村人のことを知っていて、伊良鷲も、耳丸が完...
小説 wildflower

Infinity 第二部 wildflower58

その一方で、耳丸は芳しくない。  新を診た後、親子の元に長居せず、礼は立ち去った。新のために作った薬湯を少し分けてもらい、耳丸の元に行く。 「耳丸」  礼は声をかけて、小屋の中に入る。  耳丸は、板の上を痛がって、苦労して隣の藁の上に移った...
小説 wildflower

Infinity 第二部 wildflower57

翌日、伊良鷲が粥を持って現れた。  礼は守られた場所で休めることに安心して、随分と寝込んでしまった。伊良鷲が、小屋の戸を外した時に、慌てて起きだした。横にいる耳丸は気を失ったように眠っている。  すぐに立ち上がって、入り口に向かった。陽は高...
小説 wildflower

Infinity 第二部 wildflower56

刻は未(午後二時)の頃。陽はどんどんと強くなり、あたりの木々に降り注いだ光が雨粒を照らして美しい。岩畳は陽に水分を吸い取られ、干上がっていく。そこへ、馬の嘶きが聞こえた。その後に、それを囃し立てる人の声が聞こえた。  ……人の声が聞こえた!...
小説 wildflower

Infinity 第二部 wildflower55

次に耳丸が目を覚ました時は、もう朝は過ぎていて、目の前には厚い雲が覆った空が見えた。 「……礼」  近くにいると思って名を呼ぶと、しばらくして草を踏む音がゆっくりと聞こえてきて、礼が現れた。 「気分はどう?」  礼は耳丸の頭を上げさせて膝を...
小説 wildflower

Infinity 第二部 wildflower54

「鳥が屍体を狙っているから、移動させたのよ」  礼は耳丸にもう一度水を飲ませて、山から採ってきた生り物の皮をむいてちぎると口の中に入れた。耳丸は口に入ったその果肉を口の中で潰して甘みを吸った。 「耳丸、傷口を診せてもらうわよ」  そういうと...
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