小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第三章3 実津瀬はいつも通りの毎日を送っていた。朝、起きて宮廷の見習いの仕事に行き、終わると塾の講義を聴いた。そして、気が向けば宮廷楽団の稽古場に行って、練習の様子を見ていた。 何も変わらない日々。ただ、雪だけがいない。 雪と出会う前の生活に戻っただ... 2022.04.02 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第三章2 「実津瀬!」 実津瀬は部屋から庇の間に出てきた。階の下には鷹野が立っていた。「わかっているよ、行くよ!」 実津瀬は階を下りて沓を置いた。 鷹野は早く早くと実津瀬をせかす。 今日は、都の東北にある山の山中で行われる踏集いに行くことになっていた... 2022.03.26 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第三章1 「蓮!」 呼ばれて蓮は声の方へ顔を向けた。 父が庇の間に入って来たところだが、その後ろには隠れようもないほど体の大きな男の姿が見えた。 その男は律儀なもので、蓮に会うのが目的なのに必ず主人にまず会いに行く。主人の実言が不在であれば妻の礼に会... 2022.03.19 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第ニ章29 蓮は衣装の色合わせを母と妹の榧と一緒にやった。ああでもないこうでもない、と夏の暑い日に涼しげな気持ちになる組み合わせを考えた。景之亮と最初に会う時は、装飾品もたくさん付けて、髪も凝って結ったが、もう知らない仲ではないので、こてこてとした装飾... 2022.03.05 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第ニ章28 立ち上がった二人はしばらく丘の上から、眼下に広がる宮廷を見つめた。小さな点がせわしなく動いているのは、宮廷で働く官吏や女官たちだ。 働く宮廷の人たちの姿を俯瞰して見ていると、二人は心が落ち着いていくのを感じた。自分の大切な人の命が尽きても、... 2022.02.26 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第ニ章27 翌日の朝餉を持って来てくれたのは、予想を反していつも身の回りの世話してくれる古参の侍女だった。実津瀬はてっきり、今日も蓮が来るものと思っていた。 実津瀬は粥のおかわりをして、今日雪の指を埋めに行く体力をつけようとした。 雪の指は昨日よりも黒... 2022.02.19 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第ニ章26 眠りから覚めた実津瀬が最初に見たのは、母の顔だった。左目に眼帯をした顔が見えた。眼帯で顔の半分は見えないが、とても心配そうな顔をして覗き込んでいるのが分かった。「実津瀬……」 実津瀬は急いで起き上がったら、今まで痛みなど感じていなかった肩か... 2022.02.12 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第ニ章25 蓮は部屋に戻って机の前に座った。実津瀬が次に起きるまで写しかけの本の続きを書こうと思うけれど、なかなか筆を取る気が起きない。 じっとしていると、頭の中に出て来るのは怪我をした景之亮の姿である。それほど酷くはないと言っても、腕の傷は大事にしな... 2022.02.05 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第ニ章24 陽光がさんさんと奥の寝室にも届くようになったころ、蓮は目を覚ました。目だけであたりを窺うと、どうやら褥の上に寝ているようだ。 なぜ自分が景之亮の寝ていた場所に寝ているのか?と驚き、体を起こした。すると、昨夜の激しい動きで手足やお腹が痛いし、... 2022.01.29 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第ニ章23 東の山の稜線からは白い光が見える。夜の終わりの中を景之亮は右手で蓮を庇い、門から外に出て歩く。途切れ途切れに蓮に向かって景之亮は声を掛ける。「……怖い思いをさせてしまいましたね。男が蓮殿と鉢合わせになるとは思わず…私はとんだ過ちを犯すところ... 2022.01.22 小説 あなた