小説 wildflower

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Infinity 第二部 wildflower67

実言は一人、部屋の中で座っている。礼の机の前で、机の上に乗っている下手な字、いや、文字とも言えないものを見ていた。  妻戸が開く音がして、部屋の中に進む足音。 「実言」  礼が現れた。 「二人ともやっと寝たわ。興奮してしまって、眠いのになか...
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Infinity 第二部 wildflower66

季節は梅から桜へと移る時であった。ぽっかりと北方の戦の功績を彩る花が空いてしまったと思ったが、その戦を戦った武将たちの帰還が、都の大路を華やかな出で立ちでの行進がその空白を埋めてしまった。  北方の戦を戦った兵士たちは、皆、都に入る手前の宿...
小説 wildflower

Infinity 第二部 wildflower65

季節は秋になり、都では新嘗祭が執り行われた後だった。  その日の昼間、子供たちは眠ってしまって、礼は机に向かって去から借りた薬草の本を写していた。そこへ去の邸の侍女が現れた。 「礼様、都から礼様にお客様ですわ」 「都から?岩城の者?」 「い...
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Infinity 第二部 wildflower64

礼と耳丸の帰還から一夜明けて、去の屋敷は大いに賑わった。去の怒りはもっともであるが、しかし、邸の者達は二人が無事に帰ってきたことを喜んだ。  昨夜、汚れた衣装から清潔なものに着替えた礼は、侍女達の部屋の空いている一室で休んだ。朝に、縫がやっ...
小説 wildflower

Infinity 第二部 wildflower63

夜明け前から、藁を踏む音が聞こえてくる。  耳丸はまだ夢の中だが、その音が気になって目を覚ました。  礼がいくら慎重に動こうとも、藁の音を消すことはできなかった。礼の逸る気持ちが夜明け前も前に目を覚まさせて、身支度を済まさせていた。  夜明...
小説 wildflower

Infinity 第二部 wildflower62

山を一つ越えたところで、伊良鷲と六郎は馬を降りた。ここが別れの場所ということだ。耳丸は礼を降ろし、自分も馬から降りると、その手綱を六郎に渡した。  伊良鷲が道の奥を指差した。 「この道を行けば、都に続く道と合流できる。気をつけて」  礼と耳...
小説 wildflower

Infinity 第二部 wildflower61

自分が何をしたのかよくわかっているから、夜は明けて欲しくなかった。  陽が高くなっているのに、耳丸は夢の中に寝転がっていようとした。しかし、いつまでもこうして寝ているわけにはいかない。思い切って目を開けると、自分の前に背を向けて寝ていた礼の...
小説 wildflower

Infinity 第二部 wildflower60

追いかけて、追いかけて。毎夜、息を切らして最後には倒れるまで追いかける執着。  今日は捕まえられそうなほどしっかりと女の後ろ姿を追っている。  白い肌の女。  ああ、誰だろう。捕まえて、お前は私のなんなのだと、問いたい。  艶やかな黒髪の女...
小説 wildflower

Infinity 第二部 wildflower59

季節は晩秋へと移る。寒い日が続いて、冬の訪れを感じる。  季節の変わり目は体の不調を訴える者が多くて、熱が出た、咳が止まらないなどの症状があると、迷わず礼のもとを訪れた。  礼のことを当て新している村人のことを知っていて、伊良鷲も、耳丸が完...
小説 wildflower

Infinity 第二部 wildflower58

その一方で、耳丸は芳しくない。  新を診た後、親子の元に長居せず、礼は立ち去った。新のために作った薬湯を少し分けてもらい、耳丸の元に行く。 「耳丸」  礼は声をかけて、小屋の中に入る。  耳丸は、板の上を痛がって、苦労して隣の藁の上に移った...
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