小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第一章13 「実津瀬!」 今、この邸にいるはずのない人の声がして、実津瀬は寝転がっていた体を起こした。 二日続けて塾を休むのは良くないと、実津瀬は早朝に宮廷の見習いの仕事の後、塾に行った。 昨日、真面目な実津瀬が来なかったこと心配してか、多くの人から声... 2021.05.23 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第一章12 今日、父が束蕗原に行っていてよかった。 実津瀬は、心からそう思った。 邸に家族は誰もいない。自分の様子が変でもそれを何かといってくる者はいないのだ。 雪と別れる前に背を向けて袴をつけ直し、脱いだ袍に袖を通して帯を締めた。雪は、単衣を肩に掛け... 2021.05.16 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第一章11 束蕗原に岩城実言が到着した。従者二人を連れて、馬を飛ばして都の北東にあたるこの地に来たのだ。 去の邸の離れにいる礼や蓮たちに、館の使用人からすぐに連絡が入った。宗清は久しぶりに会う父の到着に喜び、簀子縁をわき目も降らずに走って行った。それを... 2021.05.09 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第一章10 雪が言った明後日のその日、実津瀬は雪と会うということが決まっているだけだというのに、変に体に力が入ってしまう。意識しなければ、右手右足を同時に出して歩いてしまいそうになる。 女人に心を囚われるとこんなことになってしまうのか、と実津瀬は内心自... 2021.05.03 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第一章9 翌日から、蓮は母と一緒に日の出と共に去の薬草園で薬草を摘み、昼間は妹弟たちの世話をし、夕暮れまでの一時、薬草について書かれた書物を写した。 蓮の書く字は美しく読みやすい。それは、去もたいそう褒めてくれるので、束蕗原では蓮は去のためにも本を写... 2021.04.25 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第一章8 束蕗原に向かうため、夜明けとともに皆が邸の主人の部屋に集まった。実言がみんなの顔を見て寂しそうな顔をしていた。実津瀬も宮廷に出仕する前に、顔を出した。弟妹たちには昨夜たくさん話をしたので、顔を見たかったのは母だった。「お母さま、お体に気を付... 2021.04.18 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第一章7 実津瀬の生活は朝早くに宮廷に出仕して、見習いとしての雑事をこなし、そこから宮廷近くに開かれた私塾で講義を受ける。異国から来た最新の書物についての知識を得られると人気である。その講義が終わると、実津瀬は再び宮廷に帰って、もし見習いの仕事が残っ... 2021.04.11 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第一章6 新しい年を迎えるに当たって、岩城実言の邸では邸に仕える者は従者侍女、その子供に至るまで皆の衣装を新調した。皆、箱を開ける前から新しい衣装に心を躍らせた。元旦の朝には真新しい衣装に袖を通し、邸の主人の部屋へ挨拶に行った。 実言は妻の礼を隣に座... 2021.04.04 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第一章5 新しい年を迎えるにあたって、実津瀬は宮廷に片隅にある稽古場で一人汗を流していた。それは、新年の行事で舞を舞うのに、恥ずかしいものを見せられないという使命感からだった。 日も暮れて、松明が必要になるというところに我に返ったように練習をやめて、... 2021.03.28 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第一章4 長く続く簀子縁を歩いてその角を曲がると、伊緒理の部屋の入り口につく。蓮はその入り口に近づくと、胸が痛くなる。これは嫌な痛みではない、嬉しさの伴う痛み。 蓮は角を曲がって、顔を上げた。「ああ、蓮」 庇の間から簀子縁に出てきた伊緒理が蓮を見て近... 2021.03.21 小説 あなた