小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第一章14 蓮は机に向かって、本の続きを写していた。 父と一緒に束蕗原から帰るのに唯一持って帰って来たものだ。例によって、母と……伊緒理がいつでも読めるようにと写している。 伊緒理……にこの本は必要かしら……。 いや、違う。本を写す私は必要かしら... 2021.05.30 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第一章13 「実津瀬!」 今、この邸にいるはずのない人の声がして、実津瀬は寝転がっていた体を起こした。 二日続けて塾を休むのは良くないと、実津瀬は早朝に宮廷の見習いの仕事の後、塾に行った。 昨日、真面目な実津瀬が来なかったこと心配してか、多くの人... 2021.05.23 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第一章12 今日、父が束蕗原に行っていてよかった。 実津瀬は、心からそう思った。 邸に家族は誰もいない。自分の様子が変でもそれを何かといってくる者はいないのだ。 雪と別れる前に背を向けて袴をつけ直し、脱いだ袍に袖を通して帯を締めた。雪は、単衣を肩... 2021.05.16 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第一章11 束蕗原に岩城実言が到着した。従者二人を連れて、馬を飛ばして都の北東にあたるこの地に来たのだ。 去の邸の離れにいる礼や蓮たちに、館の使用人からすぐに連絡が入った。宗清は久しぶりに会う父の到着に喜び、簀子縁をわき目も降らずに走って行った。それ... 2021.05.09 小説 あなた
小説 あなた New Romantics 第一部あなた 第一章10 雪が言った明後日のその日、実津瀬は雪と会うということが決まっているだけだというのに、変に体に力が入ってしまう。意識しなければ、右手右足を同時に出して歩いてしまいそうになる。 女人に心を囚われるとこんなことになってしまうのか、と実津瀬は内心... 2021.05.03 小説 あなた